ふじわら医院 内科・泌尿器科 広島

内科・泌尿器科
ふじわら医院
広島県広島市南区段原1丁目3-11
啓愛プラザビル3F

TEL: 082-567-0022

つれづれ備忘録

ありがとう

医者になって三年目。四十代のビジネスマンの主治医になった。腎盂がんの手術後に肺転移をしたため抗がん剤治療のため入院。
昔、「二十四時間闘えますか」というCMがあったが、CMの主役そのもののような人だった。ひどい副作用にも弱音を吐かずひたすらに仕事復帰を目指して頑張っていた。癌性疼痛も現れモルヒネを使い始めたが彼は抗がん剤を続けることを希望した。私は了解し回診の度に「頑張りましょう」と言い続けた。

ある日、病室からの帰り際、唐突に「ありがとう」という言葉を背にあびた。

びっくりした。私は小さく「はい」と言ってそのまま部屋を後にした。

翌日、彼は息を引き取った。

四十代になって小さな医院を始めた。外来診療とともに往診も行っているが往診先で二回、同じような経験をした。

八十代の腎がんの男性。中華料理店の店主で頑固一徹。あまり口を聞いてもらえず何もすることがない。すぐ帰るわけにもいかず往診の度にお腹に手を当てさせてもらった。
亡くなる前の日、玄関を閉めるとき「ありがとう」の声が耳にはいった。そして七十代の肝硬変の男性。寝たきり状態で膀胱にカテーテルを留置していてその交換のために往診していた。亡くなる二日前に「ありがとう」と言われた。

動物は死期を悟って姿を消すということを聞いたことがありますが人はどうなのでしょうか。三人の男性はとても一日か二日で亡くなるようには見えなかったのですが、死の少し前に「永遠のお別れ」とも言える言葉を口にされました。ありがとうには感謝の気持ちがこもっていますが正直言って自分は感謝に値するようなことはしていません。死期を悟って現世への執着がなくなると自然に「ありがとう」と口にでるのではないでしょうか。

蚊取り線香

四半世紀の昔、県北の病院に勤めていたころのこと。

季節は夏。夕方からお腹の具合がおかしくなってきた。運悪くその日は当直だった。夜半に結構な腹痛と下痢がはじまった。
お医者さんはといえば当直室とトイレを往復
している人ただひとり。わが身の不運を嘆いていると当直室の片隅の蚊取り線香が目に入った。
もしかしたら良くなるかもと淡い期待を抱いて蚊取り線香に火をつけた。
不要不急の急患は来られないようにと祈りつつ線香の火を足裏のツボに近づけた。
方はすぐに熱くなったが反対側は鈍かった。鈍感なツボに火を近づけ熱く感じたら火を離し、また火を近づけということを繰り返した。
熱さを感知するまでの時間は段々と
短くなってきた。そして近づけるとすぐに熱くなった。いつの間にか渋り腹と下痢は良くなっていた。

当時から東洋医学の勉強をしていましたが、たまたま食あたりの特効穴を知っていた、左右にツボがある場合は感覚の鈍い方を選ぶ、モグサがなければ線香で代用できる、などの知識があったことが幸運を招いたといえます。